9/4曲目解説

news|2016/09/01 posted.

いよいよ今週末になりました洗足タウン・ギターフェスティバル。
最終日9/4開催「スペイン音楽への誘い」で演奏する曲目についてちょっと書いてみました。

まずはわたくし井上仁一郎のギターソロでお楽しみいただきます。

蝶の舌 / アレハンドロ・アメナーバル
La lengua de las mariposas / Alejandro Amenábar [Santiago de Chile, 1972-] ~ D.Suzuki
 ガリシア地方を舞台にスペイン内戦を描いた同名映画の劇中曲なんですが、ギターに編曲した鈴木大介さんのCD「カタロニア賛歌」でこの曲を初めて聴いた時にものすごくツボにハマりまして、その後いつぞやの飲み会で大介さんと同席する機会を得た時に恐れ多くも「僕もこの曲弾いて録音しても良いですか?」と迫り、アルコールの力で半ば強引にお許しをいただき今に至るわけです。最低音をドまで下げる特殊調弦、ハーモニクスの応酬、13フレットセーハなど、見どころ聴きどころ満載です。

タレガ讃歌 / エミリオ・プジョール
Homenaje a Tárrega / Emilio Pujol [Lleida, 1886 – Barcelona, 1980]
 近代ギターの父と呼ばれ、「アルハンブラの想い出」の作曲者として知られるフランシスコ・タレガ。彼の高弟でありカタルーニャを代表するギタリストであったプジョールが、師であるタレガに捧げた作品です。「タレガ讃歌」というとトゥリーナのアンダルシア風味の作品が有名ですが、こちら作品は物憂げで浮遊感があり切なくも儚く、どことなく色即是空みたいな空気感を味わえると思います。タレガの葬儀で使われたという有名な曲の引用も心に沁みます。

フランシスコ・アレグレ / マヌエル・ロペス=キローガ
Francisco Alegre / Manuel López-Quiroga [Sevilla, 1899 – Madrid, 1988] ~ C.Trepat
 セビーリャ出身で20世紀のスペインを代表するピアニスト・作曲家であったロペス=キローガ。彼は数多くの歌曲も手がけていて(一説によると数千曲あるんだとか)、カルレス・トレパットがギター用に編曲したこの曲もそのひとつです。フラメンコと闘牛をイメージした「パソ・ドブレ」と呼ばれるダンスのリズムに基づいて作られているので、日本人からすると「これぞスペイン」感が良く感じられると思います。

「恋は魔術師」より / マヌエル・デ・ファリャ
extracto de “El amor brujo” / Manuel de Falla [Cádiz, 1876 – Córdoba, 1946] ~ E.Pujol
Ⅰ. 魔法の輪 El círculo mágico
Ⅱ. 鬼火の歌 Canción del fuego fatuo
 グラナダを代表する作曲家ファリャが、ジプシーの伝説から着想を得て作曲したバレエ音楽「恋は魔術師」からの2曲をギターソロアレンジでお送りします。「魔法の輪」は「漁師のロマンス」という副題が示す通り、子守唄のように漁師の恋物語を静かに歌っています。「鬼火の歌」は、恋の儚さなどを鬼火に例えて歌う曲で、軽快なリズムに乗った最後には火がジュッと消える様子が感じられると思います。

祈りと踊り / ホアキン・ロドリーゴ
Invocación y danza / Joaquín Rodrigo [Valencia, 1901 – Madrid, 1999)
 「アランフェス協奏曲」で有名な盲目のピアニスト・作曲家ロドリーゴの作品です。ファリャ没後15年に発表された「ファリャ讃歌」であり、ファリャの作品「恋は魔術師」や「ドビュッシー讃歌」などの旋律が効果的に引用されているので、前出のファリャ作品と続けて弾く(聴く)と面白いかなと思います。ギターを弾かなかった作曲家の作品のため、演奏に楽器構造上の問題が多いのが難点ですが、僕は和音の処理に関しては作曲家がピアニストだったという点を念頭に置いています(例えば右手左手で鍵盤を分担するわけだからピアノの構造的にどういう弾き方・考え方になるのだろうか、とか)。逆にギタリスティックな箇所に関しては演奏効果を優先させています。
 
バーデン・パウエル讃歌 / カルレス・トレパット
Homenaje a Baden Powell / Carles Trepat [Lérida, 1960-]
Ⅰ. プレリュード Preludio
Ⅱ. ワルツ Vals
 僕の憧れのギタリストのひとり、カタルーニャのカルレス・トレパットが、ブラジルのギタリストであり音楽家のバーデン・パウエルに捧げたロマンティックな作品で、「プレリュード」と「ワルツ」の二部構成になっています。銘器トーレスを使って、アルカス、タレガ、リョベート、プジョールあたりの作品を主なレパートリーにしているトレパットが、こんなモダンな曲を書くんだなっていうのが面白いところです。

アンダルシア舞曲第1番 / セレドニオ・ロメロ
Danza andaluza n°1 / Celedonio Romero [Cienfuegos, 1913 – San Diego, 1996]
 日本でも熱狂的なファンが多いペペ・ロメロの父であり、ロドリーゴからの献呈曲もある「ロメロ四重奏団」の生みの親、セレドニオ・ロメロによって作られた陽気な舞曲。ラスゲアードや高速スケール、三連スラーなどの派手さがちょうどいいバランスで配置されていて、さすが演奏家としてのツボを心得ているなと感心します。ちなみにこのアンダルシア舞曲には第2番もあって、第1番に比べると多少地味ですがそっちもいずれお披露目したいなと考えています。

4つのカタルーニャ民謡 4 Canciones Populares Catalanas
Ⅰ. 聖母の御子 El noi de la mare / ~ J.L.González
Ⅱ. アメリアの遺言 El testament d’Amelia / ~ M.Llobet
Ⅲ. 盗賊の歌 Cançó del lladre / ~ E.S.de la Maza
Ⅳ. 鳥の歌 El cant dels ocells / ~ E.Pujol
 スペイン北東部のカタルーニャ地方に伝わる民謡を、それぞれ異なるギタリストによるアレンジでお送りします。「聖母の御子」は有名な賛美歌・クリスマスキャロルであり、バルセロナのサグラダ・ファミリア完成時にはこの曲が歌われることになっているんだとか。「アメリアの遺言」は、毒を盛られ死んでいくアメリア姫の物語で、カタルーニャ版のグリム童話ともいえるような仄暗さを感じさせてくれます。「盗賊の歌」は、例えば悪どい金持ちから盗みを働き弱き者たちの味方をするとか(※希望的観測)、言うなればカタルーニャ版の石川五右衛門のような義賊(※希望的観測)が、遂に捉えられてしまった時に恋人に向けた別れの歌が綴られています。「鳥の歌」もカタルーニャ地方の賛美歌・クリスマスキャロルで、同郷の名チェリスト、パウ・カザルスが世界国際平和デーに国連本部で演奏し世界中に知られることになった曲です。

椿姫幻想曲 / フリアン・アルカス
Fantasía sobre motivos de La Traviata / Julián Arcas [Almería, 1832 – Malaga, 1882]
 19世紀のスペインを代表する名ギタリストであったアルカスは、卓越した演奏技術を発揮するための技巧的な作品を数多く残しています。この曲の元ネタはイタリアの作曲家ジュゼッペ・ヴェルディが作ったオペラ「椿姫」で、劇中の名アリアがメドレー形式で繋がれています。アルカスに才能を認められたタレガは、アルカスの作品の幾つかを自らのレパートリーとしたようですが、演奏活動をしていく中でそこに改編を加えていったようで、この曲もそのひとつです。

ボレロ / フリアン・アルカス
Bolero / Julián Arcas [Almería, 1832 – Malaga, 1882]
 ボレロとは18世紀末にスペインで始まったダンス・音楽で、後に中南米などに伝わり現地の音楽にも大きな影響を与えたと言われています。基本的には三拍子のリズムですが、この作品ではリズミカルな部分と自由な歌の部分とが交互に表れます。

ハバナのプントによる幻想曲 / フリアン・アルカス
Fantasía sobre el Paño, o sea, Punto de la Habana / Julián Arcas [Almería, 1832 – Malaga, 1882]
 ファリャが作った「7つのスペイン民謡」の中に「エル・パーニョ・モルーノ(モーロの織物)」という曲がありますが、元ネタの歌はこの幻想曲と同一のもののようです。幻想曲というタイトルになってはいますけど、中身はこのアラビア風な元ネタの歌の変奏曲で、前奏〜主題〜変奏×4〜後奏という構成になっています。

最後は山﨑拓郎&森井英朗デュオを迎えて迫力のギタートリオでお送りします。

粉屋の踊り / マヌエル・デ・ファリャ
Danza del Molinero / Manuel de Falla [Cádiz, 1876 – Córdoba, 1946]
 この曲はバレエ音楽「三角帽子」の中で最も有名な曲じゃないでしょうか。この曲でも使われているミの旋法は、スペイン音楽の他にも東南アジアや中近東、インド、地中海沿岸などでも使われる独特の音階・旋法で、どことなくオリエンタルな雰囲気も漂います。フラメンコのファルーカのリズムに乗せて刺激的にフィナーレに向かって行きたいところですが、それには3人の呼吸を合わせることが肝心です。果たしてどうなることか。

エル・ビート / スペイン民謡
El vito / tradicional
 この曲は、16世紀起源のアンダルシア地方の伝統的なダンス・音楽を元に、19世紀にボレロのダンスとして作られたそうです。6/8拍子と3/4拍子が交替するヘミオラのリズムと、ジプシー音階とも呼ばれるフリギア旋法を用いて、アンダルシアの特徴であるフラメンコっぽさをプンプン醸しています。途中3人が別々の旋律やリズムを演奏するので、推進力を保てるかが勝負(?)の鍵になってくるでしょう。

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